トンガ派遣隊員報告

シニア海外ボランティアとしてトンガ水産局に着任し早くも1年が過ぎました。前回は半年目に報告しましたのでその後の出来事について報告します。

トンガでの活動要請は貝類養殖の種苗生産でしたので先ず念頭に浮かんだのは微細藻類の培養が出来るかどうかでした。この微細藻類というのは貝類の種苗生産の過程で卵がふ化した後の浮遊幼生期のエサにする大きさ数ミクロンの植物プランクトンです。トンガでは1990年代にJICAの支援を受け貝類養殖が大いに進展したのですが、当時の対象種は浮遊幼生期間が短いのでエサが不要な巻貝類でした。今回は同じ貝類でも幼生期間の長い二枚貝類(シャコガイ、真珠貝など)なのでエサは不可欠であり、前報はそういう中でトンガに適した藻類培養の取り組みと失敗談でした。

ところで生き物が丈夫に育つには多くの栄養が必要なわけで手持ちのエサが1種類しかない状態では浮遊幼生の成長・生残りも安定せず何とかしたいと思っていました。それで健康診断で日本に一時帰国した機会に公的研究機関などで藻類培養に関する最新の知見や技術など仕入れトンガに勇躍戻ろうとしたのですが、以下その時のハプニングです。実は健康診断で便潜血反応が出てしまい、しかも大腸内視鏡による要再検査の連絡が来たのはトンガに戻る予定の3日前の夕方でした。とりあえず航空券の予約変更と思い航空会社に電話しましたが窓口が混雑しつながらず、ようやくつながっても夕刻で本日は終了とか翌日は休業なのでニュージーランド本社へ直接電話してくれとか、まさに途方に暮れる思いでJICAトンガ事務所に再検査や予約変更の不調など連絡したのでした。しかし翌朝、早速トンガの企画調査員から現地旅行代理店を通じ予約変更を完了したので心配ご無用とのメールを見た時はあらためてJICAボランティア支援スタッフの迅速な対応と底力に勇気づけられ思いでした。そんないろいろ思いのこもった微細藻類を現在5種類保持し(写真1)、その内トンガに合った3種類を屋外で大量培養しています。

さてトンガに真夏のクリスマス・ソングが流れる季節となり我が水産局でも農林水産大臣を招きパーティを開くのでオーストラリア、日本からのボランティアも参加することになりました(写真2)。当日は朝から皆で豚の丸焼きなど準備に余念なく「生まれて8か月目のココナッツで育てた子豚が最高だ」と舌なめずりしながら焼き上げています。そしてウム料理に舌鼓を打ちながらパーティも宴たけなわとなった時のハプニング、女性職員が何人か歌に合わせて歓迎の踊りを披露し始めると主賓の大臣や大学関係者らが踊っている女性におもむろに近づき紙幣を胸に差し込んだり首筋に貼り付けたりし始めました。紙幣を踊り子の体に直接つけるというのはいわゆる日本のおひねりと同様おもてなしへの答礼でしょうが、このトンガ流のやや露骨でおおらかな振舞いには唖然とした次第です。

脱線しましたが再び活動の話に戻ります。熱帯の海を代表するサンゴ礁やシャコガイは体内に褐虫藻という単細胞藻類が共生しておりそれらが作り出す光合成産物を栄養源にしています。ですからシャコガイはカキやアサリのように海水中のプランクトンを食べる必要がなく、「自分の農園を持つ貝」とも呼ばれます。シャコガイは刺身で食べると貝独特の甘味がありフィッシュ・マーケットでは生で丸ごと並ぶ定番商品です。また、エコ・ツーリズムでは海底観察に欠かすことの出来ない役者ですし、観賞用としてもカラフルな外套膜は都会で根強い人気があり大変貴重な熱帯資源です。しかし、シャコガイはそのような生物の宿命として乱獲などで資源が枯渇しトンガ政府としても禁漁区を設け保護育成に努めています(写真3)。当然、水産局でも毎年シャコガイの種苗生産を行っていますが、生まれて間もない時期は前述した体内の農園からまだ十分栄養がとれないので別に培養した微細藻類が必要というわけで技術改善が求められています。ところで、シャコガイの卵をとり出す作業はなかなか豪快で母貝を大型水槽に入れ止水にしておくと太陽光で間もなく水温が35℃近くに上がり母貝は次々と水面が盛り上がる程の勢いで卵を噴出し始めます。もっとも、昼過ぎにスコールが来て太陽が隠れてしまうと水温が思ったほど上がらず「仕方ない、今日の作業はまた明日」というお天気まかせの日々が続きます(写真4)。

最後はナマコの話です。日本のナマコは泥場に多いのですがトンガの代表種はサンド・フィッシュと言い砂場に生息し潜水観察すると昼は砂中に体を埋めています(写真5)。もともとトンガをはじめオセアニアの海には熱帯ナマコが豊富に分布していたのですが中国向けのナマコ・バブルで乱獲状態に陥り、トンガでは禁漁にした経緯があります。その後、ナマコ資源状況を調査してきたのですが回復の兆しもなく、一方外貨獲得の輸出品目としてナマコに注目が集まっていました。そんな折り先日のクリスマス・パーティで大臣からナマコ増産について何か発言があったらしく、今や一番の注目種としてにわかに周囲が騒がしくなっています。そもそも今回のトンガでの活動要請は貝類養殖でしたが、ナマコは二枚貝同様に長い浮遊期間がありエサも同じなので気がついたらいつの間にかナマコが目の前にぶら下がっていたというわけです。ナマコの種苗生産は確かに二枚貝に似ていますが浮遊幼生期が終了した後、着底付着期に離乳食となる珪藻の培養管理、親の産卵誘発など異なる技術課題も多く、しかも不十分な施設で初めて接する種類、そして周囲の期待と不安の眼差しともなればもう発奮せざるを得ません。トンガでは日曜は労働禁止というSunday-Lawがあり教会通いするのですが、もちろんボランティアには通用せずナマコの赤ちゃんを育てるため正月返上で文字通り「月月火水木金金」の忙しい日々が待ち受けていました。途中いろいろなことがありましたが、幸いなことに1月下旬に生後一ヶ月を迎えることが出来(写真6)、水産局長も実験室に来て顕微鏡で付着稚仔の様子を見ながら労をねぎらってくれました。

任期は来年1月5日なので離任直前に再度ナマコ種苗生産が出来るか分かりませんが、残り1年ナマコの赤ちゃんを大切に育て帰国の折りはトンガの海に放流したいものです。

 

微細藻類プランクトンの元株

微細藻類プランクトンの元株

 

 

 

 

 

 

 

同僚ボランテイア(クリスマス)

同僚ボランテイア(クリスマス)

 

 

 

 

 

 

 

資源保護区のシャコガイ集団

資源保護区のシャコガイ集団

 

 

 

 

 

 

 

 

シャコガイ母貝の産卵誘発

シャコガイ母貝の産卵誘発

 

 

 

 

 

 

 

 

トンガのナマコ(Sandfish)

トンガのナマコ(Sandfish)

 

 

 

 

 

 

 

 

生後1ケ月の稚ナマコ(黒い粒)

生後1ケ月の稚ナマコ(黒い粒)

 

 

 

 

 

 

 

27-3次隊 トンガ派遣 R.S. 養殖

以上

 

 

 

 

 

 

 

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